【第3回】リニア新幹線 1分短縮に2,400億円を投資
更新日:8月29日
リニアの経済合理性
JR東海の東京と名古屋を結ぶ超電導リニア中央新幹線の工事が前進することになりました。車両を電導で10センチ浮かし自動運転により時速500kmで東京と名古屋を46分で結ぶのですが、ルートの9割はトンネルです。2014年に着工しましたが、南アルプスをぶち抜く静岡工区について、(前)静岡県知事がトンネル工事によって大井川の水脈が変化し下流域に渇水の恐れがあるとして、在任中は工事を認めず工事が大幅に遅れていました。しかし、後任の知事が(令和6年5月就任)、7月7日に一転して容認したことで工事が前進することになったとのことです。
JR東海は、ドル箱の東海道新幹線で得た利益の多くをリニア新幹線の建設費に充て、不足分は国から借り入れします(財政投融資という原資は国民の税金)。建設費は当初5.5兆円(2014年)でしたが、現在は11兆円と2倍に膨れ上がっています。国はリニア新幹線が開通することで東京と名古屋が一体となる広域経済圏が生まれ経済効果は10兆円と試算し事業の経済合理性を説いています。資材費や人件費などが高騰する中で、今後、建設費が一層増える可能性がありますが、果たして莫大な投資額を回収できるのか、経済合理性のあるプロジェクトなのか、疑問を感じないわけにはいきません。
東海道新幹線は現在、東京名古屋間の約370kmを最速86分で結んでいますが、これを40分に短縮する計画です。現在の「のぞみ」でもSNSで拡散するほど外国の観光客が驚く高速ですが、46分の短縮のために11兆円という莫大な金額をつぎ込むことになります。単純計算ですが、1分縮めるために2400億円をかけるということになります。ちなみに、関西国際空港は約1.5兆円、中部国際空港は約6000億円、神戸空港は約3140億円で、当時は高い事業だと社会から一面批判もされましたが、リニア新幹線はそれをはるかに上回る額で、国民の税金も含まれているのです。食料品など身近な物価に敏感な国民も、公共的な工事(鉄道、空港など社会的なインフラ)の事業費には鈍感になってはいないか、あらためて厳しく注目する必要がありそうです。
リニア新幹線を建設する根拠として、JR東海や国は、首都圏と中部圏・関西圏との経済連携による大きな経済効果をあげていますが(大阪副首都構想も絡んでいるのでしょうか)、ほかに、災害対応として東海道新幹線の二重化(東南海地震や富士山噴火などのリスク分散)といった国土強靭化のためにも必要だとしています。経済効果については疑問なしとしませんが、災害リスクの分散については賛成すべき点もあります。ただそれが直ちにリニア新幹線の建設になるのかは別問題です(上越新幹線と北陸新幹線の迂回ルートなど)。
特異な地質構造と安全性
リニア新幹線のルートは、日本列島誕生時の地殻活動に関係している糸魚川静岡構造線、中央構造線といった世界的な大断層やフォッサマグナという大地溝帯の周辺を通るようです。素人考えの私には、大規模な土木建設工事によって不測の事態が発生するのではと考えてしまいます。原子力発電所の安全性を評価する基準では活断層など地質構造が大きな論点になっていますが、リニア新幹線の場合、地質の専門家がどう評価しているのか、静岡県だけの問題としではなく、広く国民に対してわかりやすく説明責任を果たすべきではないかと思われます。
特異な地質構造をもつ地帯を、地表から深さ1400mに長いトンネルを掘って超高速鉄道を通すことは技術者冥利に尽きるでしょうが、大自然への挑戦とも言えどのようなリスクが待ち受けているのか。 以前、龍飛崎の青函トンネルの現場を見学した時に、毎分20トン(JR北海道、大成建設資料)もの海水をくみ出していたことに驚きました。海底の圧力でトンネル内に海水が浸みだしポンプで排出しているとのことで、将来的にはトンネルや機器の老朽化で第2青函トンネルが必要になるかもしれません。日本の技術者の強い自信と次代への技術継承が感じられる一方で、技術者のおごりもありはしないか、狭い日本で1時間にも満たない時間短縮がどれほどの大きな意味をもつのか、疑問を抱く国民も少なくないと思います。
欧米の企業が、“日本は今でも1~2時間もあれば新幹線や飛行機、高速道路で北海道から九州まで移動できるのに、なぜ1分1秒を短縮することに躍起となるのか、理解に苦しむ”と言った話を聞いたことがあります。だから外資系の工場は北海道や九州にでも立地するのでしょう。狭い日本列島に高速交通体系がこれほど高密度で網羅されている国はないでしょう。一体どこまで日本は時間距離を短くしようとしているのか、ドラえもんのように瞬間移動(どこでもドア)を可能にしようとしているのか。近未来には人が行きたい場所へ瞬時に移動できる時代が来るかもしれません。そうなれば車窓から地方の景色を見て異郷を感じたり、駅弁を食べる楽しみもなくなるなど、旅行の醍醐味は消えてしまいます。
リニア新幹線の完成は早くて10年後以降(2036年以降)になると報じられていますが、その頃は日本の社会経済は変容し、リニア新幹線の評価も時代が決めることになるでしょう。大いに評価されているかもしれませんし、その逆もあるわけです。大きなプロジェクトは完成するまで長い時間を必要とし、その間に社会経済は当然に変わりうるもので、後世の人々が評価することになります。
六ケ所村で進められている核燃料サイクル事業も着工から約30年(いまだ建設途上)、青函トンネルも着工(調査坑掘削1964年)から完成(海峡線開業1988年)まで24年かかっています。特に青函トンネルの建設で得られた多くの技術は、その後フランスとイギリスを結ぶドーバー海峡の建設にも活かされています。今回のリニア新幹線が歴史的な偉業として後世に評価され、その技術が世界各地で活かされることを期待したいものです。
(了)
(脚注)
※糸魚川静岡構造線
新潟県糸魚川から諏訪湖を経て静岡市に至る大断層、日本アルプスを縦断する
※中央構造線
九州~四国~紀伊半島~浜松~諏訪湖~関東へ伸びる世界的な大断層
※フォッサマグナ
東北日本(東京以北)と西南日本(糸魚川静岡構造線以西)の境界にある大規模な溝(地溝帯)日本列島が折れ曲がった部分に新しい地層が形成

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