【第2回】コンテンツ産業の地方展開の可能性
- 徳増秀博
- 2 日前
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前回は、「高市政権の『地域未来戦略』は若者の地元定着を促すか ~今、若者は地方に多種多様な働く場を求めている~」と題して、これからの地方における産業振興のあり方について一つの考察を述べた。そこでは、従来の工場誘致に偏重した地方の産業振興政策から、若者の働き方の価値観の変容に対応した多様な仕事づくりへの移行が鍵になることを述べた。
今回は、政府の成長産業17分野の一つになっている創造的価値の高い“コンテンツ産業”が、地方の産業振興にどのような可能性をもたらすのか、コンテンツ産業の将来性や地方展開への可能性について述べてみたい。
コンテンツ産業とは何者か ~ 巨大な市場規模で成長産業 ~
そもそもコンテンツ産業とはいかなるものか、やや漠としていて一体どのような業種なのかを明確に示すことにはなかなか難しい面がある。一般には漫画やアニメを思い浮かぶくらいかと思う。“コンテンツ”とは、和訳すれば中身や内容を意味する言葉だが、それがインターネットの普及とともに1990年代からデジタル情報、たとえばゲームや動画、音楽といったものをコンテンツとして使うようになった。高市政権が示した成長産業17分野の一つにコンテンツ産業も含まれているわけだが、今や、漫画、アニメ、ゲームソフト、音楽、書籍・出版、情報、サービス、新聞、テレビなど我々の身近に存在する多様な創造的ものづくり産業であり情報産業と言える。この寄稿文を掲載する情報発信サイト「Web構想しもきた」もコンテンツ産業と言えるだろう。
では一体、コンテンツ産業の世界的な市場規模はどのくらいなのだろう。自動車産業のような巨大な市場なのか、AIのように将来巨大な市場を形成するのか。この分野の専門家であるエンタメ社会学者の中山淳雄(あつお)氏は、コンテンツ産業の現在の世界の市場規模は135兆円と石油化学や半導体産業(100兆円程度)を上回る巨大なもので、1位は米国75兆円(世界市場の二分の一)、2位は中国33兆円、そして3位に日本が13兆円で続いていると指摘する(2022年時点)。そして市場規模は拡大の一途とのことで、高市政権が成長産業に指定する理由もわかる。ちなみに日本の農業生産額は約9兆円だから、なんとコンテンツ産業の方が大きな産業なのである。
先日政府が発表した成長戦略産業17分野(60品目、自衛艦艇とLNG運搬船は除く)の2040年度までの投資額は370兆円(官民合わせて)と莫大な額(年間26兆円のペース)だ。投資内容をみると、AI・半導体に101兆円、デジタル・サイバーセキュリティ55.4兆円、そしてコンテンツが33.7兆円で上位3分野に入っている。細目でもコンテンツ分野のゲームが24.5兆円とAI用半導体68兆円、クラウド・データセンター・蓄電池の32.7兆円に次いで3位に位置づけられており、それだけコンテンツ産業への政府の力の入れようがわかる。ちなみに次世代革新原子炉5兆円、フュージョンエネルギー(核融合)3.1兆円となっており、これらは青森県とは無縁ではなく、今後、青森県の関与の仕方で大いに期待できる分野である。
若者の働き方とコンテンツ産業の親和性
コロナ禍をきっかけに、テレワークやワーケションといった働く場所を選ばない自由度の高い就労形態が進んだことで、若者の働き方の価値観が大きく変容しつつある。若者にとって職業の選択肢が豊富で、給料が高く、娯楽も揃っている都会で働くことは憧れであり、ステイタスであることも事実である。しかし、長時間の通勤時間や劣悪な住環境(狭くて高賃料)、空気汚染、物価高(給料は高いがその分支出も多く可処分所得は地方よりは少ないかもしれない)などを考えた時に、一生、都会で働き家庭を持って過ごすだけの価値が都会に果たしてあるのだろうか、と立ち止まって考える若者が増えてきているのではないか。ふるさと回帰や地方移住の志向が強まり潜在的な希望者はかなり多いのではないだろうか。つまり都会で働く魅力が薄れてきて、メリットよりもデメリットが多くなっているのだろう。
従来の工場誘致の場合、大規模な投資や長いリードタイム(計画から操業までの時間)が必要になるが、今や設備投資が極めて小さくてフットワークが軽く、地理的な距離を問題視しない自由度の高い創造的な業種の地方展開が進み、地方における産業政策に一石を投じている。その代表的な一つがコンテンツ産業であり、作画や動画、音声、編集などはデジタル化が進みIT技術との連携によって、市場である都会と遠く離れた地方での事業活動を容易にしている。また資金力の乏しい若者にとって、初期投資が少なくクリエイティブな頭脳が仕事のツールになるので、意欲があり能力のある若者には起業化・創業化しやすい。もちろん給料の多寡も職業の選択基準だが、今のご時世、給料よりも自己実現できる仕事を選ぶ若者が多くなってきている。こうした自己実現型の人材をいかに発掘して地方に誘致し産業振興を図るかかが、地方における新たな切り口で発想の転換が必要である。
※最近亡くなった世界的に著名なフランスの俳優が「一生、好きなことを仕事にできて幸せであった。
大半の人は好きでもない仕事を一生、続けなければならないのだ」という言葉を残している.
コンテンツ産業を誘致する場合、自治体側には、工場誘致のように用地の確保や産業団地の造成、インフラの整備など莫大な費用も時間も必要がなく、小さな事務所スペース(シェアオフィスで十分)と高速大容量の通信網(オンラインでの業務完結が可能)があればスタートアップが可能という利点がある。これまでは、漫画やアニメに関心がありそれを仕事にしたい若者は、地方にコンテンツ産業を受け入れる環境がないために都会に出て働くしかなかった。また自治体や経済界にもコンテンツ産業を「産業」として認める意識が薄く(馬鹿にしていた自治体も少なくない)、誘致企業の範疇になかったことも事実である。他方で早くから、コンテンツ産業を産業政策の一環として積極的な誘致に取り組んで成功している自治体もある(具体例は次回で紹介)。
コンテンツ産業の成長と地方への展開
コンテンツ産業は典型的な都市型産業である。特に漫画、アニメなどはテレビ・出版社が集中する東京の地場産業とも言え、アニメ制作会社の8割が東京にある。「風の谷のナウシカ」「もののけ姫」「となりのトトロ」などで有名なスタジオジブリに代表されるように、東京西部の小金井市、三鷹市、武蔵野市、杉並区や練馬区に事務所やスタジオ、アニメーター(原画をもとにセル画を作成)などが集積している。
4年前になるが、読売新聞に「アニメ覇権、地方から ~ スタジオ移転・新設広がる ~」という記事が掲載された。記事には、アニメ制作会社が作画や編集のデジタル化によってどこでも仕事が可能となり、地方にオフィスやスタジオを移転したり新設したりする動きが活発になってきた、と、実例をあげながら報じている。そして、アニメ好きで自己実現をめざしたい若者の雇用や定住・移住につながることを期待して、その誘致に力を入れる自治体が出てきていると紹介している。
アニメ分野のジャーナリストである数土(すど)直(ただ)志(し)氏は、国内外でアニメ人気はすさまじく、映画やテレビ向けの作品本数が急増する一方で、制作する会社や人材が足りない状況だと分析する。そこで制作会社は新たなオフィスやスタジオを新設したりアニメーター(作画者)などを募集したりする動きが活発化している。また都会は賃料が高騰し、人材の確保が難しいので、地方に活路を求める傾向にある、と指摘している。
さらにアニメ産業は労働集約的な仕事なので雇用効果が高いほか、工場のようなインフラ整備が不要であること、原材料の搬入による騒音・渋滞・事故問題が発生しないこと、廃棄物が発生しないクリーン産業であること、など自治体の諸負担は小さいことが地方から歓迎される。若者にとってもクリエイティブな仕事で、好きなことを仕事にできるという自己実現性が高いという魅力がある。欲を言えば、創造性が劣化しなければ定年がなく高齢者の就労対策にもなるだろう。またアニメーターの職場を写真で見ると多くが若い女性であり、アニメ好きの女性の潜在的な人材や能力を引き出すのもこの業界かもしれない。
食料やエネルギー、レアメタルなど産業に不可欠な重要資源に乏しい日本にとって唯一の国内の資源は優れた頭脳をもつ創造的な人材である。それを活かす産業がコンテンツ産業であり、都会から離れていても、住環境や自然環境、子育て環境などに恵まれた地方にこそ、この産業の成長の鍵があり、若者の定着など地方活性化の救世主になることが期待されるのではないだろうか。
内閣府では令和6年6月に新たなクールジャパン戦略を打ち出したが、その中でアニメや漫画、映画、出版などのコンテンツ産業は、10年後(2033年)に50兆円産業に成長させる目標を立てている。その一環として「コンテンツ地方創生拠点」事業として、全国からコンテンツ産業による地域振興の企画提案を募集し、採択となった事業についてコンテンツ創造やクリエーターなど人材育成、コンテンツ企業の誘致の面で助成する取り組みが行われている。令和7年度は、札幌市、仙台市、群馬県、東京都、高知県、福岡市、天草市が採択されている。※詳細は内閣府知的財産戦略推進事務局、「コンテンツと地方創生の好循環プラン」を参照。
次回は具体的な事例を紹介しながら、コンテンツ産業による産業振興に必要な自治体の意識改変について述べる予定である。
(次回に続く)
一般社団法人 地域デザインオフィス
代表幹事
徳増秀博
・プロフィール
現在
一般社団法人 地域デザインオフィス代表理事、一般財団法人 日本立地センター監事
略歴
農村地域工業導入促進センターを経て、一般財団法人 日本立地センター専務理事
退職後、帝京大学経済学部経済学科教授 2023年退官
長年、全国の企業立地活動や地域振興に関する調査研究に従事
経済産業省の産業立地政策へのアドバイスのほか、東日本大震災後の復興計画や工業団地の開発に従事


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