【第4回】コンテンツ産業と工場誘致の脱思考
更新日:10月16日
金太郎飴の工場誘致
日本は、1960年代の高度経済成長を通じて京浜地帯から名古屋、阪神、瀬戸内、九州北部への過度な工場集中と公害の発生によって弊害が目立つようになっていた。そこで国は工場の地方分散を進めて公害の抑制と地方の産業振興を同時に図ろうとした。工業再配置計画である。田中角栄が通商産業大臣だった1972年(昭和47年)6月のことだ。折しも田中が日本列島改造論を引っ提げて自民党総裁選に望む時で、勝利した田中は新幹線や高速道路など高速交通体系の整備と一体となって工業の再配置を進めた。それ以降、国は数度にわたり工業の地方分散政策を打ち出し、地方自治体はその政策に沿って工業の誘致に躍起となった。地域振興の王道が工場誘致になったのである。確かに大規模投資を必要とする工場の立地は、自治体にとって固定資産税などの税収増加をはじめ雇用創出や所得向上に大きな期待があったことは事実である。また地方交付税の算定基礎にあたり工場立地にかかわる税収は控除されるという利点も大きかった(工場立地にかかわる税収が大きいと地方交付税の減収につながるという特例)。
反面、自治体は工業団地の造成や関連インフラの整備、環境保全対策など財政負担が大きいことに加え、リードタイム(誘致活動から操業に至るまでの期間)が長く、誘致合戦に勝つためには、自治体は他地域よりも有利な助成制度を設けたりしなければならない。誘致に成功すれば自治体の投資は回収できるが、成果が上げられなければ工業用地は塩漬けとなり投資は回収できないままになる。そうした事例は全国に少なくない。
創造的な産業の誘致へ
コンテンツ産業はパソコン類以外に大型の設備投資は不要で、操業までのリードタイムが短く、廃棄物の問題もない環境に優しい利点がある。自治体の財政負担も工場誘致の場合に比べてはるかに少なく(補助金程度)、今の若者が仕事に求める創造的な業種であり、仕事の選択肢が少ない地方にあって若者の定住や移住を促す期待がもてる。もちろん、工場誘致は雇用や所得の面で大きな効果があることは事実だが、工場の誘致に成功するのは一部の地域に限られる。事実、経済産業省が公表した2025年の全国の工場立地件数(1000㎡以上の用地取得)は736件とピークだった1989年の6分の1にまで減少している。また最近では誘致に成功したものの従業員の退職や転職によって労働力不足に直面する工場が目立ち、常時従業員を募集するなどその確保・維持に苦慮していることも忘れてはならない。工場を誘致したからといって若者が定着するとは限らない時代となった。それは若者の労働に対する価値観が大きく変化したからである。
コンテンツ産業は「創造的な人材」が動くので一定の生活環境が整っていれば場所を選ばない。国の成長産業戦略が示すように産業構造が大きく変容する中で、地方は、これまでの工場誘致に固執するのではなく、いやむしろ工場誘致依存の思考から脱却して、成長産業であるコンテンツ産業に目を向けることも一つの方法である。コンテンツ産業を自動車や半導体、電気、機械、食品といった花形産業と同様に「産業」として認識し積極的に受け入れることができるか否か、成長産業として地域の活性化に貢献してくれるか否か、を自治体がしっかりと認識できるかどうかにかかっているのではないか。そのためには、従来型の思考をもった行政の意識改革や学びの姿勢が必要になる。若者の仕事に対する多様な労働価値観に対して、敏感に対応できる人材を首長や行政の幹部に登用することがますます求められるだろう。
「コンテンツ産業と地方における産業振興の可能性」シリーズは今回で終了

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